【考察】オーストラリアはなぜこう豊かなのか

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こんにちは。ジュークです。

さっそくだが、先日X(旧Twitter)で以下をつぶやいたところ、4000以上のいいね、など思っていた以上の反響があった。

そんなに深い意味があって呟いたわけではなく、単にオーストラリアで生活・仕事をして5年ほどになるが、正直いまだになんでこうもオーストラリアが豊かな社会であるのか、わからないことがある。すごい簡単なところで行くと、電車もバスも時間通りに来ないし、いろんなことが適当であるし、オンラインで買ったものの配送すらままならない時もある。そんな国が、どうして世界有数のリッチ社会となっているのか、いまだに疑問である。そんな自問自答に近いつぶやきであり、この記事ではそれを少し深掘りしてみたいと思う。

私は大学時代に歴史学、主に国際関係を専攻していたため、その分野は少しばかりの知見を有するが、経済学や社会学は専門外であるため、本記事の内容はあくまで、在豪5年目の素人が書いた「一市民としてオーストラリアで暮らす中で、この国がリッチな理由」ぐらいの温度感を読んでいただけると嬉しい。

私が考える「国家を豊かにする」3つの条件

このブログ記事の構成として、私の個人的な考えとして国が豊かになる前提として以下の3つの条件をあると思う。

  1. 国としてお金を稼ぐ、外貨を稼ぐ、世界に対して競争力・需要力のある産業がある
  2. 強い産業で稼いだお金を、一部の企業・人間だけではなく、国民全般に分配できる構造がある
  3. 政府が国民のお金の動きを最大限把握できる仕組みがある

簡単にまとめると、お金を稼ぐ力があり、それが一部の人間に集中しない、そして政府がお金の動きを追うことができることである。

ごくシンプルであるが、1だけではただの独裁国家であり、ごくごく一部の人間が利益を得るだけであり国家全体が裕福にはなりづらい。そのゆえ、2も必要である。すなわち、国家の強い産業で得た利益をより広い国民層が享受できる枠組みがあると考えられる。そして、1と2だけでは、稼いだお金も配布されたお金も政府が把握する手段がなく、せっかく稼いだお金が消えてしまうリスクもある。したがって、3がなければ正しい国家税制および税制政策を打てないと考え、3つ目に追加した。

【マクロ】オーストラリアは世界的にみてどれほど裕福なのか

その国家がどれだけ裕福を示す指数はいろいろ世界に存在し、どれが一番優れているなど私は専門外なのでわからない。

最もわかりやすい指標して外せないのは、やはりGDPであろう。GDP = Gross Domestic Productは、一定期間内に国内で産み出された物やサービスの付加価値の合計のことである。以下は、IMFが2023年に公開したデータである。

ランク国家名GDP(2023年/US100万ドル)
1アメリカ26,949,643
2中国17,700,899
3ドイツ4,429,838
4日本4,230,862
5インド3,732,224
6イギリス3,332,059
7フランス3,049,016
8イタリア2,186,809
9ブラジル2,126,809
10カナダ2,117,805
11ロシア1,862,470
12メキシコ1,811,468
13韓国1,709,232
14オーストラリア1,687,713
出典:Wikipedia

と、正直結構下までスクロールしないと、オーストラリアは出てこない。世界に200ヵ国程度存在しているといえば、トップ5%であるわけだが、アメリカや中国に比べるとお世辞にもGDPだけでは経済大国とは言えず、いわゆる「ミドルパワー」に属する国家の印象が強い。

Twitterでも「GDPの割に人が少ないからじゃないの?」とのコメントもいただいた。同じくIMFが2022年に公開した一人当たりのGDPランキングは

ランク国家名一人あたりGDP(2022年/USドル)
1ルクセンブルク135,046
2アイルランド101,509
3ノルウェー99,481
4スイス96,390
5カタール84,514
6ブルネイ79,816
7シンガポール79,576
8アメリカ76,027
9アイスランド74,417
10デンマーク68,094
11オーストラリア67,464
12スウェーデン57,978
13オランダ57,836
14カナダ57,406
出典:Wikipedia

一人当たりのGDPでみると、そのほとんどが欧州であり、小国であり、資源国であると言えるだろう。人口が少ないと、一般的に社会保障が大国ほど必要にならないことから、資源で得た財源で、その小さな人口であれば養っていくことができると理解できそうだ。

オーストラリアもこのリストでは11位に入っており、上位といえば上位なのだが、特別際立っているわけでもない印象を持ったのは私だけではないだろう。ちなみに、日本はというと28位で一人当たりGDPは $39,243であり、クウェート($38,755)、台湾($36,051)、韓国($34,994)、イタリア($34,777)より少し多いが、ドイツ($51,104), ニュージーランド($49,847)、イギリス($49,761)などといった国々に比べると低い数値となっている。

もちろん、GDPおよび一人当たりのGDPが客観性に優れた数値ではないことは理解している。物価の違い、米ドルでの指数であるので為替の考慮も必要であるし、日本のように人口1億人以上の国と、シンガポールやルクセンブルクのようなマイクロ国家を単純に比較はできない。とはいえ、マクロの視点で世界のどのあたりに位置しているかをざっくり掴むには、使える指標の1つであると言えるだろう。

まとめると、世界に200近い国があると考えると、GDPおよび一人当たりのGDPのみで見ると、オーストラリアはおおよそトップ15、つまりマクロ経済の視点では上位10%に入る国であると言えるだろう。

【マクロ比較】オーストラリアと日本

もちろん、オーストラリアと日本は経済的にも社会的にも全く異なる国であるため、単純な比較はできない。その前提で、いろいろと比較してみることで見えてくることもある。Googleが公開しているDataCommonsを元に、いくつかグラフを作ってみた。

まずは、1970年ごろからの一人当たりのGDPの成長率。ワイン色がオーストラリア、紫が日本である。

1990年代半ばまで、両国とも成長曲線を概ね描いてきたが、やはり日本はバブル崩壊前後から一人当たりのGDPの伸び悩みが鮮明になる。オーストラリアは逆に2000年ごろまでは比較的緩やかな伸びとなっているが、それ以降は堂々たる成長を見せている。両国の立場は、2000年代半ばに逆転し、以降はオーストラリアが一人当たりのGDPで勝っている。

次に、GDPの成長率をみていこう。

これをみると、同じバブル崩壊以後の日本はGDP成長率がマイナス〜ゼロ、よくて4%程度を推移している。オーストラリアは1990年ごろに1回ゼロを経験して以降、コロナショックの特別なタイミングを除き、3〜4%の成長率を維持してきたと言える。これは、この後の1970年代のGDPを見るとそれが鮮明に映る。

GDPを1970年代から見ていくと、絶対数ではやはり日本が圧倒している。

2023年現在、日本は第4位の経済大国としてオーストラリアの3倍近いGDPを有している。ただ、日本は人口1億2000万人、一方オーストラリアは2600万人と、その差は5倍近い。人口とGDPが一概にイコールの関係にあるとは言えないものの、オーストラリアの一人当たりのGDPの高さが窺える。

オーストラリアは1970年から緩やかであるものの右肩あがりの成長を見せる一方、日本はやはりバブル崩壊後は増えている時もあるものの、長期で見ると右肩上がりというか、純粋に成長しているとは言いづらい線を描いている印象だ。

最後に、株式市場の比較だ。以下のグラフはGoogleから引っ張ってきた、オーストラリア市場のAll Ordinariesと日経平均を比較したものだ。前者は、オーストラリアの主要な企業を代表する約500社以上の企業の株価の動向を示すために使用される。この指数は、オーストラリア株式市場全体の動向やパフォーマンスを把握するための指標として重要な役割を果たしており、ASX All Ordinariesは他の株価指数と比較されたり、投資家やアナリストが市場全体の動向を分析する際にも参考にされる。

これを見る限り、2000年からの24年間を見ても、オーストラリア株式相場は150%以上の成長を遂げている。日本はやはりバブル崩壊のマイナス効果があまりにも大きく映る。

【ミクロ】オーストラリア経済の構成

以下は、オーストラリア政府が公開しているオーストラリア経済をわかりやすく理解するためのデータである(出典: Composition of the Australian Economy)

  • GDPを構成する主要産業の比率
    • Mining(資源): 14.3%
    • Health and Education: 12.8%
    • Finance: 7.4%
    • Construction: 7.1%
    • Finance: 7.4%
  • 輸出の内訳
    • 資源関連: 62.5%
    • サービス: 18.1%
    • Rural: 10.3%
    • Manufactured: 6.9%
  • 輸出先
    • 中国: 27.3%
    • 日本: 17.5%
    • 韓国: 7.8%
    • インド: 5.2%
    • ヨーロッパ連合:4.7%
    • アメリカ:4.5%
  • 人口
    • 人口:2660万人
    • 人口成長率: 2.4%

かなりハイレベルな数字と内容ではあるが、おおむねほとんどの人がイメージ通りの構成となっていると思われる。主要産業の1つはやはり資源であり、実に輸出の6割以上を占める国家産業となっている。輸出先も中国1カ国でおよそ3割を占めており、続くのは日本、韓国、インドとアジア太平洋との経済的結びつきが強いと見える。

Twitterでのコメントでも、「やっぱり資源が豊かさの根源なんでは?」「どうせ資源でしょ」といった内容のものを多くいただいた。その意見には完全に同意である。

事実、Wikipediaによると、オーストラリアの資源産業は以下のように飛び抜けている。

  • 金、マンガン:世界第2位の生産量
  • 銀:世界第8位の生産量
  • 銅、ニッケル:世界第6位の生産量
  • 石炭、ボーキサイト、:世界最大の生産量
  • 亜鉛、コバルト、ウラン、:第3位の生産量

どれもこれも、経済発展を成す上で必要不可欠な資源である。

また、世界の資源発掘会社のトップにオーストラリア企業のBHP、Rio Tinto、Whiteheaven Coal、Fortescue Groupなどが並ぶ。日本人にはほとんど認知度がない企業が多いのが正直なところだろう。余談だが、日本の多くの石炭発電所の石炭の多くは、オーストラリアが生産元となっているところもある。

話を少し戻すと、前提1「国としてお金を稼ぐ、外貨を稼ぐ、世界に対して競争力・需要力のある産業がある」の答えは、「YES」であると言える。

ただし、オーストラリアの資源産業は、GDPに占める最大の産業であるが、2021年に27万人の雇用を生み出し、これは全体の労働人口のわずか2%にあたる。なんだか雇用者数は大きな数字に思えるが、日本の総務省統計局の情報では、日本で最大の産業である製造業の労働人口の15%を占めているらしい。そう思うと、オーストラリア経済における資源産業の影響って大きいのではあろうけど、日本の製造業ほどではないという見方もできる。

つまり、資源産業は確かにオーストラリアにとって大きな経済的意味を持つが、それだけがこの国の豊かさを生んでいないと言える。雇用数だけでは計れない、広義での経済効果はもちろんあるだろうが、それだけで人口2600万人を養えるとはもちろん思えないのは、私だけではないはずだ。

【ミクロ】オーストラリアの豊かさの根源

そこで、Twitterでいただいたコメントの中から「確かにそうだな」と思えるもの、「その視点はなかった」といえるものをいくつか紹介したい。

まずは、英語圏であることの優位性。

これは間違いなく、オーストラリア経済の好循環に寄与していると言える。純粋に、経済大国・アメリカの情報を言語の壁なしに受けられるのはかなりの強みである。

実際にオーストラリアで暮らしていて思うが、米国や英国、欧州からの情報の入りが早く、日本で暮らしていた時は感じなかったが、英語圏の情報がしっかりと日本に浸透するのには今も時間がかかっている印象がある。わかりやすいのは洋画だろう。アメリカで新しい映画が公開されると、オーストラリアもまもなくあと追って公開される。字幕をつける必要もなければ、吹き替えもしなくてよいので手間暇が非英語圏で放映するのに比べれればそれは断然に少ないだろう。さらには、英語圏であるからこそ、英語教育ビジネスも発展しやすい。純粋に留学生も呼び込みやすく、大学をはじめとした高等教育機関の財源となりやすい。

そして英語圏最大の強み、それは優秀な移民を受け入れやすくなることだ。

オーストラリア統計局の情報によると、2020年時点で全人口2500万人のうち、おおよそ35%の760万人がオーストラリア国外で生まれている。多い順で、イングランド(98万人)、インド(72万人)、中国本土(65万人)、ニュージーランド(56万人)と続く。ちなみに日本は、ギリシャ(10万人)より少なく統計にすら入っていない。

まあ、移民が多ければいいという問題ではないが、人口が国力を構成する側面は否定できず、そして労働力を確保するといった意味でも移民の数は一定の経済効果があると言える。近年の大幅な不動産価格の高騰などマイナス面ももちろんあるが、特にオーストラリアのように国土に対し人口が極めて少ない国では、人口を増やすことに一定の意味があると考える。

そして、オーストラリアが英語圏であることは、何か統計があるわけではないが大きな優位性を生んでいるだろう。やはりこのご時世、移民が移住先を選ぶ際は、経済的発展性と言語の競争力の意味は大きいと思う。マイナー言語をわざわざ勉強してもその先に雇用や発展性がなければ、その努力は大義を成さない可能性が高まってしまう。であれば、世界共通言語である英語、かつ、経済が伸びている国へ移住したいと思うのは必然であろう。

稼いだお金の分配の仕組み

ここからは、特に統計やデータで証明はできないが在豪経験から「これはこの国の豊かさに影響しているだろう」と思うことをあげてみる。まずは、特に前提2「強い産業で稼いだお金を、一部の企業・人間だけではなく、国民全般に分配できる構造がある」を軸に考えてみたい。

まず、真っ先に思いつくのはSuperannuation(スーパーアニュエーション)である(略称スーパー)。スーパーとは、簡易にまとめるとオーストラリアの退職年金制度のことだ。この制度は、労働者が定期的に一定額を積み立てておき、退職時に年金として受け取ることができるようにするための制度である。

Superannuation制度は、労働者の年金や退職金の貯蓄を促進するために1970年代に導入された。この制度は、オーストラリアの全労働者に対して義務付けられており、雇用主も従業員のSuperannuation口座に一定額を支払う義務を負っています。積立金額は、その年によって違うが雇用主が従業員に支払う金額は、最低金額は法律で定められており、2024年3月現在月収の11%程度である。日本の確定拠出年金に近い制度であるが、日本の制度では給与から差し引かれるのに対し、決定的な違いとしてオーストラリアは給与と別に11%程度が積み立てられることが挙げられる(実質、額面の給与の1割増が実質収入といっていい)

Superannuationは、個々の従業員のために設定された口座に積み立てれる。これらの口座は、労働者が定年退職や一定の条件を満たしたときに取り出すことができるようになっている。退職時には、Superannuation口座から一時金(lump sum)や年金(annuity)として支払われることが一般的だ。

Superannuationは、Superannuation Fundと呼ばれる国に認められたファンドのような組織が運用している。個人は基本的に好きなファンドを選ぶことができ、運用方法も「保守的」「バランス」「ハイリスクハイリターン」などといった種類から選ぶことができる。

オーストラリアのSuperannuationスキームは2022年時点で、おおよそ2兆5000億ドルが運用されており、これは同国のGDPの2倍に近いの数字である。あくまで参考であり、オーストラリアのSuperannuation全体との比較であり、しかも実態として完全イコールではないが、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用金額は約1兆8000億ドルであり、産油国でソブリンファンドとしても有名なノルウェーの年金基金は1兆3500億ドルほどなので、いかにオーストラリアのSuperannuationが巨大かがわかる。

なにが言いたいかというと、国家のお金の分配の一定の役割を果たしていると捉えることができ、ポイントは大きく2つである。まず、労働者側からすると、月額の1割が毎月積み立てられていき、これまでオーストラリアの順調な経済成長もあり、年利10%程度で増えていっていることから、老後や退職後の心配が全くなくならないとは言わないが、軽減される仕組みになっていると言える。政府からしてみても、この積立金があるおかげで年金の一本足打法となる国民の数は減るだろう。事実、退職時の平均積立金はおおよそ37万ドル(今のレートでおおよそ3680万円)であるので、一定の効果は見込めるだろう。

一方、マクロの視点でいくと全国民の一定のお金がプールされ、それが世界の債権や株式、不動産に長期的な視野で投資されるわけなので、それは国家の財政にも一定のプラス効果を生むと期待できる。さらに、この支払いは雇用主の義務とされており、経済的な負担になりうることは否定できない。同時に、これは安定的な経済成長および、常に人材不足に喘ぎ労働者有利のオーストラリア経済であるから成し得ていることでもあるかもしれない。自国の株式市場や不動産市場が伸びていなければ、このスキームが成立しづらいのは確かだろう。

そして、2つ目の社会の豊かさに起因していると思われるのが、富の配布の観点では、私の過去の記事で触れたオーストラリアには二大政党制の民主主義が根付いていることである。私はオーストラリア政治の専門家ではないため、あくまで本記事の主旨に絞った点で考えると、Superannuationのようなシステムが導入されたのは当時オーストラリア労働党が政権を担っていた時だ。

オーストラリア労働党は、その名の通り、労働者のために政党があり、近年は加えて社会的マイノリティや移民などといったもう少し広義での支持基盤を築いている。一般的に、最低賃金の是正や、労働者の権利の拡大、保育園や学校への補助金の拡大などが選挙時に謳われる内容である。対するはオーストラリア保守党であり、こちらはどちらかというと富裕層やビジネスオーナー側、そして保守派が支持基盤であるため、法人税の見直しや株価上昇などを狙う政策が多い。

話を戻すと、Superannuationはどう考えても労働者にメリットの大きなシステムであり、それが導入したのは労働党政権であることはごく自然に思われる。一方、こうやって二大政党制が機能しているからこそ、このような素晴らしい積立システムが存在しているとも言える。明らかに富裕層・企業側の政党だけが政権を握り続けていたら誕生していないと思うのは、私だけはないだろう。

そもそも、社会のニーズや必要する政権・政策はその時々で変わる。オーストラリアも経済成長だけの国ではもちろんないし、たとえばコロナショックの時は大きな経済的・社会的混乱に陥った。そういったとき、やはり皺寄せが真っ先に来るのは弱者であることはいうまでもない。経済が上向きな時は、株価や上がったり法人税を下げることで企業活動を刺激することは社会にとってメリットが大きい。一方、労働者の賃金が上がらず人々の生活が困窮すれば、もちろんそれは経済の下押し圧力がかかる。そうなると、何方かと言えば労働党が好まれやすくなる。こうして二大政党制が機能しているからこそ、特定の社会グループだけが優遇されるなどといった構造は起きづらい。そういった、その時々で政党を選ぶことができる社会基盤があることは、この国の広義での豊かさに起因していると思う。

お金の流れを記録するTax File Number

国が稼いだお金、そして個人へ流れているお金を正しく政府が把握しなければ、正しい税制政策を立案・実行できないのは火を見るよりも明らかだと思う。せっかく企業が外貨を稼いでも、その利益を従業員へ給与やSuperannuationとして渡しても、政府がそれを効率的に調べることができる土台がなければ、正しい税制改正もできず、それまでの努力はかなり薄れてしまう。そもそも、誰がいくら稼いでいるかを調べる方法がなければ、富裕層寄り・労働者寄りの政党もなにもないだろう。

オーストラリアにはそんな役割を果たす「Tax File Number」(以後TFN)が存在する。TFNはオーストラリアに1930年代から存在していると考えられており、日本でいうところの国税庁である、オーストラリア税務庁(Australian Taxation Office、ATO)が発行する個人識別番号のことだ。TFNは、オーストラリアで課税される個人に対して与えられます。主な目的は、次のようなものが当てはまる。

  • 税金の申告:TFNは、オーストラリアで収入を得た個人が税金を申告する際に使用される。税金の申告を行うには、TFNが必要だ。
  • 雇用:雇用主は、従業員にTFNを提供する必要。TFNがない場合、収入から源泉徴収税が差し引かれることがある。
  • 福利厚生:TFNは、年金や社会保障などの福利厚生プログラムに参加するためにも使用される。

とどのつまり、日本でいうところのマイナンバー制度がおおよそ100年前にオーストラリアで導入されていることになる。

日常生活でTFNを使用する場合は多い。たとえば、

  • 就労するとき(TFNなしでは原則就労できない)
  • 投資活動をするとき(TFNなしでもできるが最高税率が適用されるため、事実上必須)
  • 銀行口座を開く時(同上だと思われる)
  • 各種社会保障を受ける時(生活保護、子供の免税処置、保育園の支援金など)

とどのつまり、オーストラリアで生活していてお金の関わる事柄全てにおいて、実質TFNが必要であり、これによって国税局が個人の収入を管理している。税金の支払い時期(Tax Return)になると、各々この番号を使用して確定申告を行う。就労・投資・各種収入の合算に対して累進課税で税率が決まる方式となっている。そしてお金の動きは原則全てのこのTFNに紐づくため、オーストラリア政府は完璧にないにせよ、おおかた各国民のお金の動きを調べようと思えば調べることのできる仕組みがあることになる。

これにより、国家がお金の流れをある程度把握できるようになっている。「ある程度」と記述しているのは、どんな仕組みでも抜け道はあるものなので、完璧ではないことを強調している。ただ、これはTFNを批判するわけではないことは伝えておきたい。

まとめ

オーストラリアという国家は、やはりGDPでみても一人当たりのGDPで見ても、世界では上位に入ってくるお金持ち国家であることは間違いないさそうだ。その豊かさは、外貨獲得の強い産業があること、稼いだお金が国民にある程度分配され長期投資に回ること、そしてお金の流れを政府が把握できることの3つが揃っていることが合わさっていると考える。

日本生まれ、海外育ち、2018年よりオーストラリア在住。2021年7月に第一子が誕生。普段は外資系企業でサラリーマンやってます。

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